本校の小林廉教諭が,第70回読売教育賞 算数・数学教育部門の最優秀賞を受賞しました。
報告書の題目は『現代的な課題を数学的に読み解く力を育成する教育活動―本校生徒はなぜ「人との接触8割減」を読み解けたのか?―』です。本研究の目的は,新型コロナウイルス感染症対策として2020年4月頃にとられた「人の接触8割減」は妥当だったのか?を問いとする数学授業における生徒たちの実態の一端と,その実態を可能にした要因の一端を明らかにすることでした。この実践は,2020年7月当時,本校卒業生である9回生が6年生(高3)のときに数学Ⅲ履修者に対して実施しました。
結果として,生徒たちは,様々な仮定を自ら設定し,自力で漸化式を導入して感染者数の変化のモデルを表現し,接触人数の減少割合を変えたシミュレーションを実施して「人との接触8割減」を評価できること,また,自分たちで表した漸化式からさらにわかることを議論し,感染者数が増加するときは指数関数(等比数列)にしたがって増加することに基づいて人との接触機会を減らすことの意味を数学的に解釈できることがわかりました。そして,こうした実態を可能にした要因として,「日常生活や社会の問題解決を図ってきたこれまでの数学授業」,「生徒主体のプロセスを重視した他教科の授業や課題研究」,「同じ事象を異なる教科で同時期に探究してきた経験」の3点を明らかにすることができました。
これらの要因から,現代的な課題を数学的に読み解く力を育成するにあたっては,本校が取り組んでいるような低年次からの探究を重視した一貫的な教育活動と,教員側が自分の教科の授業であっても教科等横断的な視点を持って指導に臨んでいくことの有効性および必要性が示唆されます。
上記の実践は,「専門家や政府の提言でも,自ら科学的に検証しようとする生徒たちの試みや姿勢が,数学を活用して社会の問題を考える良い実践例となっている」と評価されました。